イレギュラーハンターの弱点
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イレギュラーハンター。 「ロックマンX」の世界における、レプリロイドの警察組織(に近いもの)です。 構成員はサポートレプリロイド、そして何より戦闘用レプリロイド。 彼らの使命はただひとつ、イレギュラーの破壊。 人間に危害を加えるレプリロイド「イレギュラー」を破壊し、その犯罪行為を防いで 市民の安全、ひいては社会の治安を守るのです。 自らの危険を顧みることなく悪党イレギュラーに立ち向かい、必殺の一撃でズバッと退治!! いやあ、かっこいい。 彼らの中で特に優秀な者は「特A級ハンター」の称号を授かるわけですが、その数はイレギュラーハンター全体の、わずか0.01パーセント。 まさに花形、街のヒーローであります。 恐らく有名でしょうね。とっても有名でしょうね。 イレギュラーたちはその名を聞いただけで震え上がることでしょう。 かように天下無敵に見える特A級ハンター。 しかし、実は意外な弱点候補が浮上してまいりました。 この弱点、特に人型でないレプリロイド(8ボスなど好例)によく当てはまるかと思われます。 何だとお思いですか? それは…… 人間の子供です。 ……おや、意外ですか? そうかもしれませんね。 凶悪犯を日夜向こうに回す百戦錬磨のつわものどもに まさかそのような弱点が存在するとは。 ですが、これが意外でもなんでもないのです。 さて、その根拠を見ていくといたしましょうか。 まず、少々遠回りになりますが、戦闘用レプリロイドと周囲の環境から見てみましょう。 戦闘用レプリロイド。 どうですか? 街中にいそうですか? まず普通いないでしょうね戦闘用ですものね。 あなたの周りにいますか? マシンガンだの抜き身の刃物だの常時携帯してる人。 お巡りさんのピストルがせいぜいでしょうが、あれだってほとんど目立ちませんね。 したがって、街中での戦闘用レプリロイドのレア度は相当高いと思われます。 で、彼らがイレギュラーハンター、しかも特A級のヒーローだったら。 そのレア度、想像するに余りあります。 さらに、それが人型でなかったりなんかしよう物なら。 どうですか? どう思いますか? 街中にいそうですか? さて、いよいよ本題。 そんなレア度タマちゃん並み(死語)な彼らのうちの一人が住宅街を歩いています。 その途中、幼稚園の遠足かなんかの20人ぐらいの子供らに出っくわしたと仮定します。 かたや、TVの中にしかいなさそうな非人間型戦闘用レプリロイド、しかもかっこいい特A級イレギュラーハンター。 かたや、好奇心旺盛でいたずら盛りの子供たち。 最初は「あ、イレギュラーハンターだ!」の大合唱。 周りに人がいた場合、視線の集中砲火。 まあ、ここまではよろしい。日常的に充分ありうる光景です。 やれやれと苦笑いしつつも、彼は子供らに手なんぞ振りながら、その脇を通り抜けようとします。 その時。 めったに見られないイレギュラーハンターに興味をそそられた子供の一人が、ぺたっと彼のボディに触ります。 それを見ていた他の子供たち。 さあ、どうなります? あくまで可能性に過ぎませんが、彼は一瞬にして子供たちに取り囲まれます。 20人中半分は脇で見ているとしても、残り10人にとりつかれる訳です。 もうこうなったら収拾つかないでしょうね、もみくちゃにされるでしょうね。 引率の先生が「やめなさーい!」なんて叫んだとしても、はたして効き目があるかどうか。 さあ、どうすれば? なにせ戦闘用ですから、彼のボディには各種凶器があるわけです。 バスター? マシンガン? そんなのはまだいいでしょう、撃たなきゃいいんですから。 問題はアレです、もっと単純な凶器です。 例えば、オストリーグのボディに植わっているあの刃。 例えば、ヒャクレッガーのシッポについているあのトゲ。 これに子供が飛びつこうもんなら、想像するだに恐ろしい結末が待ち受けていること必至。 あ、走って逃げちゃいけませんよ、オストリーグ。 その速度で住宅街疾走して、人にぶつかろうもんなら過失致死ですから。 シッポ遠隔操作して子供の手の届かないところにやろうなんて駄目ですよ、ヒャクレッガー。 子供がそれ追っかけて飛び出して、車にはねられたらどうします? 瞬間移動で逃げるのもいけません。周囲が動揺して治安乱れますから。 それどころか、うかつに身動きするのもいけません。これは上の二人以外にも言えます。 例えば、ひっついてくる子供らをもてあまして、ついうっかり腕を後ろに動かしたとします。 無論、その腕はハードな金属製でしょうね。 で、その先に子供がいたら? 高さ的に顔面ジャストミート。鼻血ぐらいで済むかどうか。 もうお気づきでしょうが、どう動いたって似たような事故が起こる危険性があります。 「うかつに身動きする」ことの危険性はそれだけではありません。 なんせ相手は子供です。何しでかすかわかりません。 面白半分に、関節部に指を突っ込んでくる子供もいるでしょう。 そこで動いたりなどして、関節が閉じたりしたら。 子供の、あの小さい指をまるでギロ(以下削除)。 そして。 もし仮に、それでうっかり子供をどつき倒して怪我などさせたりしたら? 先に挙げた、「イレギュラー」の定義。 「人間に危害を加えるレプリロイド」。 どうです? ついさっきまでのヒーローが、一瞬にして犯罪者に転落。 これは屈辱です。否、恐怖です。 先に挙げた、「イレギュラーハンターの仕事」。 「イレギュラーの破壊」。 ついさっきまでの狩る身が、一瞬にして狩られる身に。 これを悲劇と言わずして何と言う。 そして狩る方も後味悪いでしょうね。つい昨日まで同じ釜の飯食った仲ですし、第一悪意ありませんから。 よって、戦友たちのためにもそのような不幸な突発事故は何としてでも避けたい。 しかし、さっきも述べたように、危険部位に子供が飛びつく事態も防がねばなりません。 でも、はっきり言って難しいでしょうね、これは。 危険部位に飛びつこうとする子供は押さえるか避けるかせねばなりませんが、 それをやろうとすると、今度は周りの子供に危害が及ぶ可能性が生じるわけです。 もうジレンマですね。どないせっちゅーんじゃって感じですね。 でも、市民の安全を守るイレギュラーハンターとしては何かしなければいけません。 これを怠れば、職務怠慢の危険も生じるわけですから。 ……という訳で、子供たちに遭遇した彼が取るべき行動は…… 「笑顔を見せつつも決して目を合わせず、一定の距離を保ちつつ速やかに立ち去ること。 万一捕まった場合は決して逃げず抵抗せず、塑像のように押し固まってひたすら嵐の去るのを待つこと。 しかし、危険部位に飛びつこうとする子供は、周りの子供たち全員の動静に全神経を研ぎ澄ませ、彼らに危害を加えぬよう気を配りつつ、スローテンポで押し返すか防ぐかすること。 その際、必要な部分以外に体を動かしてはならない」 ……なんかもう、あらゆる意味で絶望的ですね。んな事やってられるかって感じです。 ええ、そうでしょう。やってられませんよね、見るからに。 一度こんな目にあったら、まず間違いなく神経が糸のごとくすり減るでしょう。しかる後、確実に心の傷決定です。 二度三度続けて遭遇したら、辞表の文面が鮮やかに脳裏をよぎることでしょう。 ……いや、恐らくいるんじゃないでしょうか、それで辞めてったハンター。 いてもおかしくありません。ハンター支部は世界各地にありますから、一人ぐらいは。 「あいつ、なんで辞めたんだ?」「いや、実は子供たちがさ……」 そんな会話が同僚たちの間で交わされます。 情報社会ですから、子供伝説は通信などを通して静かに、しかし確実にハンターの間に広まっていきます。 そしてその過程で「そう言えば俺の知り合いにもそんなことが……」なんて話が必ず出てきます。 かくしてぴろぴろ尾ヒレがついて、やがて彼ら共通のトラウマが出来上がっていくのです。 ……しかし、物事には必ず両面というものがあります。 イレギュラーハンターにとっては不幸でも、それを喜ぶ者も必ずいるはず。 そう、イレギュラー諸君です。 いつも邪魔するにっくきハンター、奴らのおかげでテロも密輸も世界征服もできやしねえ。 そんなあなたに朗報です。 「イレギュラーハンターは子供が怖い」 これを使わぬ手はないでしょう。 なに、方法は簡単です。 常日頃からやさしいおじさん(あるいはおばさん)を装い、子供らを手なずけておくのです。 無論、数は多ければ多いほうがよろしい。……いえ、多すぎても困りますが。 そして犯行直前に、その子供たちを一か所に集めておきます。 何も、無理やり連れて来る必要はありません。あなたはただ一言、こう言えばいいのです。 「イレギュラーハンターのお兄さんたちが遊びに来てくれるよ」 そう。彼らはきっと、喜び勇んでついてくるでしょう。 で、適当にそこで遊ばせておきます。 でも逃げないように、囲いだけはくれぐれもお忘れなく。建物の中とか、いいんじゃないでしょうか。 そして迎えた決行本番。 首尾よく事を終え、逃げるあなたを追うハンター。ふと見れば、特A級のあいつもいるじゃねえか。 しかしここで死んでは一巻の終わり。あなたはどうにか、子供たちのいる建物まで逃げ延びます。 外を見れば、もう包囲されています。 包囲網は着々と膨らみ、名だたる精鋭ハンターたちがまさに突入寸前。 時は、満ちた。 あなたは扉を開き、集めておいた子供たちを一斉に解き放ちます。 さあ、どうなります? 唐突に訪れるカタストロフィ。 それまでの気勢はどこへやら、パニック状態で逃げまどう特A級ハンターたち。 それをひたすら無邪気に追いまわす子供たち。 かくしてあなたは壊滅状態の包囲網をやすやすと突破し、どこかへ高飛びするのです。 どうですか? 簡単でしょ? のみならず、あなたは子供には一切危害を加えてません。 盾代わりにしたという後ろめたさはありますが、暴力も脅迫もナシですから。 これをうまく応用すれば、いずれ世界はあなたのもの。 目指せ、統一国家地球!! …………。 って、犯罪助長してどうする!? あと200年後にレプリロイドが生まれて、イレギュラー問題が起こらないという保証はどこにもないぞ!? しかもΣあたりが応用しだしたら、人類滅亡じゃないですか。 こ、これはイカン。気紛れで始めたジョークが同胞の危機を招くとは。 というわけで皆さん、子供が生まれたら命がけで語り継ぎましょう。 「イレギュラーハンターにじゃれついちゃいけません。非人間型特A級ならなおさらそっとしといてあげなさい」 そう。例えでも笑い事でもなく、人類の未来を握っているのは子供たちなんですから。 完。 |