はたらくおまわりさん







ドッペルタウン。
「人間とレプリロイドの共存」をモットーに、天才科学者レプリロイド「ドップラー博士」が建設した街です。
しかし残念なるかな、この街は、シグマに操られたドップラー博士その人が起こした反乱によって壊滅的打撃を受け、その後復興したという話も聞きません。

幻のユートピア、ドッペルタウン。それは一体、どんな街だったのか。
哀悼の意味をこめまして、失われた楽園にしばし思いを馳せることにいたしましょう。

ドッペルタウン。
この街の基本理念は無論「平和」です。
2度に渡るシグマの乱、そのような悲劇を繰り返してはならないわけです。
で、当然必要となってくるのが、犯罪者やイレギュラーを取り締まる組織。
が、イレギュラーハンターは、シグマの乱で大打撃をこうむっています。

しかし案ずることはありません。
ドップラー博士は天才ですから、自前の警察用レプリロイドを造るなんぞはお手のもの。
それに世界中から支持を得ているこのタウン計画、協力者には事欠きません。
と、いうわけで。
世界中のレプリロイドのいいところを参考に、ここに堂々完成したのがドッペルタウン専用ポリスレプリロイド。
そう、皆さんおなじみ「ヴァジュリーラFF」「マンダレーラBB」の2体であります。

まずこの二人、なんと言っても性格のバランスがいい感じです。
自信家で強気なヴァジュリーラ、落ち着きと風格をそなえたマンダレーラ。
ヴァジュリーラがバシッと犯罪者とっ捕まえて、マンダレーラがこんこんと言いさとすんでしょう。
これは非常に効果的です。光景が目に浮かぶようです。まさに動と静、絶妙のバランス。

しかもこれ、この取り合わせだからいいんです。
逆だったらちょっと困りますね、体格的に(人の体をどうこう言うのは良くないのですが)。

まずヴァジュリーラ。同僚のマンダレーラは言うに及ばず、8ボスたちなんかよりもだいぶ小柄です。
これで静的性格だったら、十中八九犯罪者にナメられます。
え、「腕が立つからいいじゃないか」? 確かにそうかもしれません。
しかし忘れてはなりません。彼は機動力重視のレプリロイドなのです。
それを充分に活かすためにも、ここは攻めの一手で犯罪者にニラミを効かせるのが正解でしょう。

そしてマンダレーラ。あれで動的性格だったら……
言わぬが花。
血の雨の降りそそぐ光景が、ふと脳裏をよぎりました。
やっぱり、こうでなくてよかった。

さらに。
「世界中のレプリロイドのいいところを参考にしている」と言うだけあって、その性能は折り紙つき。
抜群の機動力と防御力を誇るスピードチャンピオン・ヴァジュリーラ。
パワーだけならあのΣにも及ぶ豪腕戦士・マンダレーラ。
まさに天下無双、最強のガーディアンであります。

そして、警察官として何よりも必要なもの。
そう。言うまでもなく任務に対する使命感、そして勇敢さであります。
この2人はどうか。ちょっと検証してみましょう。

場面はX3、ドップラー博士の研究室。
悪の科学者と化したドップラー博士が、2人に命令を出すところであります。

ドップラー 「あのイレギュラーハンター(注:Xのこと)を ほかくせよ。なるべく、いけどりでな。」
2人 「はっ、いだいなる ドップラーはかせのために!」

おお。非常にいい感じではないですか。第一関門「使命感」クリアです。
では、もう少し見てみましょうか。
8ボスステージ。Xの前に現れたヴァジュリーラのセリフです。

「はかせのめいれいだ きえてもらう。

……何っ!?

待った! 待ったお兄さん、そんな命令出てないぞ!!
こ、これは異なこと。いくらスピード系だからって、ここまで突っ走っていいのかっ?
続いてマンダレーラ。

「わが しゅくめいにより たたかってもらう。いざ!!」

おお、話が分かる。
……とか何とか思ってると、「生け捕り」の意図なぞカケラもない、力強いパンチをいただくハメになります。
だからいつ出た、そんな命令。

第二関門「勇敢さ」、確かにこれはもうK点越えでしょう。
しかし、これまでの持論に変更を加える必要が生じました。
警官じゃありません。間違いなく死刑執行人です、この2人。

さらに、先ほどのドップラー博士の「生け捕り命令」、そして2人の出動直後に、こんな会話が交わされています。

VAVA 「くっくっくっ・・・まどろっこしいな。いけどり とはね・・・」
ドップラー 「おまえか・・・パワーアップまでして さいせいしてやったのに・・・
いいかげん、わたしのしじどおりにうごいてくれないか・・・

博士。まず直属の部下に言いなさい、直属の部下に。
ほっといたら火を見るよりも明らかに血を見ますぜ。

ああ、脳裏をよぎる取り締まり風景。
犯罪者逮捕なんかさせたら、きっとこんな感じでしょう。

まずドップラー研究所にて。
例えば「銀行にて現金強奪事件発生、犯人はワゴン車で逃走」の通報が入ったとします。

ドップラー 「ぎんこうごうとうを ほかくせよ。なるべく いけどりでな。」
2人 「はっ、いだいなる ドップラーはかせのために!」

こうして、おまわりさん出動!
マンダレーラは、市民に危害が及ばない場所で待機するのがいいでしょう。
そして逃走車両を追うのは、もちろんヴァジュリーラ。

銀行強盗A 「ア、アニキ! おれたち おわれてますぜ!!」
銀行強盗B 「くそっ、なんだ あいつ!?」
ヴァジュリーラ 「フッフッフッ・・・わたしの な は ヴァジュリーラ。
  ドッペルタウンの けいさつかんとして おおくの はんざいしゃを ほうむってきた。」
銀行強盗B 「け けいさつかん!? ヤバい、にげろ!!」

しかしむろん、ここで逃がす道理はありません。
持ち前の機動力を活かし、マンダレーラの待ち受ける場所まで車を追い込むのです。
あとはマンダレーラが体を張って止めるという寸法です。

銀行強盗A 「わーっ! アニキ、まえ まえ!!」
銀行強盗B 「!!?」
マンダレーラ 「わが しゅくめいにより たたかってもらう。いざ!!」

くらえ、ひっさつ・ごうわんパンチ!!!

轟音、車両炎上。


……だっ、だめだ、CM入ります! とてもじゃないが放送できない!
文句なく傷害致死
です。しかも2人がかり。

ならば1人だけではどうか。
巻き戻して、逃走車両を追うヴァジュリーラのシーンからどうぞ。

銀行強盗A 「ア、アニキ! おれたち おわれてますぜ!!」
銀行強盗B 「くそっ、なんだ あいつ!?」
ヴァジュリーラ 「フッフッフッ・・・わたしの な は ヴァジュリーラ。
  ドッペルタウンの けいさつかんとして おおくの はんざいしゃを ほうむってきた。」
銀行強盗B 「け けいさつかん!? ヤバい、にげ・・・」
ヴァジュリーラ 「きえてもらう。」

車両切断。

轟音、炎上。

…………さらにだめです。
シーンも変わってないのにこの結末。だって攻撃的ですもん、このおまわりさん。
傷害致死どころか、完全に殺人成立です。

というわけで、前言撤回。
「この2人の性格が逆でなくとも、血の雨が降る可能性は大いにある」
反乱起こす前から立派にナイトメアポリスです。
泣く子も黙る悪夢警察。凶悪犯罪者さえ、その名を聞くだけで震え上がる……

……って、あれ?

「犯罪者が震え上がる」って、ひょっとしたら喜ばしいことですか?
そうですよ、犯罪抑止力ですよ、これ。
だって、犯罪起こさなきゃ、おまわりさんに追われることはないんですから。

……しかも、それでもなお犯罪を起こすような輩って、よほど生活に困ってるか、でなきゃよほどの凶悪犯。
前者はまずないでしょう。かの有名なドップラー博士の街ですから、警備体制もニュースになってるはずです。
こんな危険なところでわざわざ犯罪起こすメリットがありません。
で、後者。これはもう、シャバに置いといてはいけません。
心置きなく
ナイトメアポリス出動、というわけです。

「凶悪犯にも人権がある」? こんなおまわりさんがいる街で犯罪起こそうなんて方が間違ってます。ニュース、ちゃんと見ないと。
大体、凶悪犯罪野放しにして平和都市もないでしょう。
そうです。おまわりさんが舞台裏で血眼になって働いてこそ、市民の治安が守られるのです。
やはり、あの2人の圧倒的な戦闘力は、ドッペルタウンの平和には不可欠なのです。
……おお、すばらしい。問題、皆無じゃないですか。
さすが天才・ドップラー博士。
一度はどうなることかと思いましたが、私のごとき凡百の徒にはうかがい知れない深謀遠慮があったのですね……

銀行強盗、違法風俗、スリ万引きに引ったくり、詐欺師も痴漢もハッカーも誘拐犯もおさかなくわえたドラ猫も、みんなまとめて一刀両断!
悪れぇ子はいねがー。街の平和を守るべく、今日も巡回する超優秀警官二人。
「だ、駄目よ坊や! 悪いことするとおまわりさんが来ちゃうわよ!」
そんな伝説が街全域でささやかれ、人々は扉の影に息を潜めてその日その日をやり過ごす……

……あら?






完。